横浜地方裁判所 昭和40年(レ)14号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕そこで本件仮処分により控訴人が営業上所有する三輪貨物自動車一台、乗用車二台、モーターボート一艘のうちいずれか三台(艘)を格納すべき場所として予定した本件土地を使用できないため、東京都内に車庫を借り一日金一、七〇〇円月額金五万円の賃料支払を余儀なくされ、而も右車庫は住所から遠く交通に二時間前後を要し、業務上の不便が甚しい、又被控訴人は所有地内に分譲マンシヨン建築の計画があり完成の暁はそのための私道として使用される虞があるとの二点が本件仮処分決定を取消すべき特別事情に当るかどうかを判断する。
民事訴訟法第七五九条に所謂特別事情には、仮処分債権者の被保全権利が金銭的補償によつて終局の目的を達し得る事情と仮処分債務者がその仮処分により異常な損害を蒙るべき事情の二つがあり、その取消が許されるためには両者のうちいずれか一つの事情で存すれば足りると解すべきところ、原審における控訴人本人尋問(第一回)の結果により真正に成立したものと認められる疏甲第九号証によれば控訴人は同三九年九月九日東京都江東区大島町一丁目二五〇番地第二号に駐車場を借受けその所有にかかる乗用車二台、モーターボート一艘を格納し、一日金一、七〇〇円の賃料を支払つている事実を認めることができる。しかし右東京都内に車庫を求めたことが本件仮処分の結果であるとの点については本件全証拠によつてもこれを認めることができない。
かえつて成立に争ない疏甲第一三号証および前記尋問の結果により真正に成立したものと認められる同第四号証並びに原審における控訴人本人尋問の結果を綜合すると控訴人所有地の公道に面した部分にはかなりの空地があり自動車の駐車が不可能ではないこと、控訴人の営業の本拠は本件土地に隣接して新築した家屋ではないことが窺われるのであつて、これに反する原審における控訴人本人尋問(第一、二回)の結果は措信し得ない。又被控訴人がその所有宅地内に分譲マンシヨン建築の計画を持つているとの事実を認めしめる証拠もない。
従つて右二点を前提とし、控訴人が被控訴人において本件仮処分により享有する利益に比し回復し難い著しい損害を蒙るとの主張は爾余の判断をなすまでもなく失当であり、他に金銭賠償可能か否かにつき主張立証のない本件においては仮処分決定を取り消すべき特別事情は存在しないものといわねばならない。
ところで控訴人は本件申立において、被控訴人の通路は本件土地ではなく、控訴人所有の前同所六七一一番の九二及び三木与志夫所有の同所同番の九三の土地の東北端側で同所同番の三四及び同所同番の八四の土地と接する部分に巾約五尺長さ約一七間の私道があつて被控訴人方玄関に直接し、被控訴人方家族は専らこの私道を通行していたものである。仮に被控訴人が本件土地に通行権を有していたとしてもその後昭和八年に右私道が開設され爾来これが利用せられて何ら不便はなく、且つ右私道を通行することが囲繞地のためにも最も損害が少いから私道以外に通行権なく、従つて被控訴人は本件土地につき被保全権利を有せず仮処分を維持する必要性と緊急性は存しないから、本件仮処分決定は取消さるべきであると主張するけれども、かかる事由は本来仮処分申請の当否を審理する異議訴訟において異議事由として主張すべき事柄であり、特別事情による仮処分の取消申立においては前説示のとおり仮処分請求の基本の権利及び仮処分の必要があるかどうかには関係なく、仮処分の存在を前提として、専らこれを取消すべき事由の有無すなわち債務者の側の回復困難な損害、或は金銭賠償可能かどうかについてのみ判断すべきものであつて、特別事情による取消申立である本件においてはこれを主張し得ないと云わねばならず、従つて主張自体失当であるから当審も此の点につき審理しない。(石橋三二 深田源次 千葉庸子)